お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。早速ですが、投資先の企業を見極める上で、財務諸表や業績等を調べることになると思うのですが、銀行員の方は企業のどういった部分を見ていらっしゃるのでしょうか?
一概にこれといったものは言えませんし、説明させていただくとなると、それなりに時間がかかるので、順を追って説明させていただきます。まずは財務諸表の基本からいきましょう。
決算書とは
企業の通知簿
決算書という言葉自体はおそらく皆様も一度は聞いたことがあると思います。一言で表現すると企業の通知簿といったところでしょうか。もう少し正確に表現すると、企業がステークホルダー(※)に対して開示する自身の経営状況を示す書類のことです。
ステークホルダー(Stakeholder)とは、ある事業やプロジェクトに関係し、その成否に影響を受ける人や組織のことを指します。具体的には、企業の場合、株主、従業員、顧客、サプライヤー、地域住民、政府機関などがステークホルダーに含まれます。また、政府や非営利団体の場合には、市民、利用者、支援者、関係機関などがステークホルダーになり得ます。
決算書を見ると、利益・損失の状況や財政状況など、その会社の経営状況を定量的に理解するのに役立ちます。そのため私たち銀行員は決算書を穴が開くほど見て、分析し、その会社の優れているところや問題点、場合によっては粉飾の有無などを確認します。
決算書にも種類がある
一口に決算書と言っても、根拠とする法律で指し示す書類が違ってくることには注意が必要です。
具体的には、金融商品取引法における財務諸表と会社法における計算書類という2つがあります。これらは混同されてどちらも決算書とひとくくりにされることがありますが実は違います。これから株式投資を検討している皆様には、金融商品取引法が定める財務諸表についての理解を深めていただければ結構です。そして金融商品取引法が定める財務諸表とは以下の3つを言います。
A.貸借対照表(Balance Sheet:B/S)
B.損益計算書(Profit & Loss Statement:P/L)
C.キャッシュフロー計算書
財務諸表の理解がなぜ必要なのか
例えばあなたが友人の一人に自分のお金を貸すという場面を想像してみてください。あなたが気にしなければならないことはただ一つ。
貸したお金はちゃんと返ってくるのだろうか。
そこで今度はお金がきちんと返ってくるかどうかをある程度予測しなければなりません。そのためには最低でもこんなことは考えるのではないでしょうか。
その友人は今借金がどれくらいあるのか。どれくらいの給料をもらっていて毎月どのくらい余剰資金が生まれているのか。そもそも今手元にどのくらいお金を持っているのか。
あくまでも一例に過ぎませんが、上記のような内容はやはり気になるのではないでしょうか。友人であれば、それを直接聞けばいいのかもしれませんが、一般の企業となるとそうもいきません。そこでそれを解決するためにあるのが財務諸表です。財務諸表にはあなたが抱いた疑問を解決する情報がたくさん記載されています。それを一つ一つ読み解くことでお金を貸せるかどうか、株式投資で言えば、投資に値するかどうかが定量的に判断できるのです。
貸借対照表(B/S)とは
貸借対照表(Balance Sheet:B/S)とは、決算時点での企業の資産や負債の状況をまとめた資料です。貸借対照表は以下の表のように3つの要素で構成されています。
(1)資産(Asset)
代表的な資産→現預金、売掛金、土地建物などの不動産、車やPCなどの動産など
(2)負債(Dead)
代表的な負債→借入金、買掛金など
(3)資本(Equity)
代表的な資本→資本金、利益剰余金など
なぜ貸借対照表がバランスシートと呼ばれるかというと、右側(資産)と左側(負債+資本)が必ず一致するようにできています。左右でバランスが取れるのでバランスシートと呼ばれます。
ちなみに今後あなたが株式投資を始めた際に、あなたが投資したお金は(3)資本の部分に投入されることになります。負債と資本には明確な違いがありますし、株式投資をお考えのあなたにはぜひ知っておいていただきたいのですが、この説明は次回以降の記事にさせてください。
損益計算書(P/L)とは
損益計算書(Profit & Loss Statement:P/L)とは、その企業が1年間でどれだけの利益を生み出したかをまとめた資料です。家計簿的なイメージを持っていただければ結構です。損益計算書内には複数の利益が存在しています。
(1)売上総利益
(2)営業利益
(3)経常利益
(4)当期純利益
損益計算書は売上から費用を差し引いていく形をとっていますが、費用にも複数の種類があります。売上原価や販売管理費などで、何が差し引かれているかで指し示す利益が変わってくると思ってください。我々銀行員が最も気にするのは(2)営業利益ですが、投資をしようとしている皆様が最も気にするべきは(4)当期純利益です。
(1)から(4)の詳細な説明は次回以降にゆずります。とにかく今回覚えて頂きたいのは、企業が1年間でどれだけ稼いできて(売上)、その売上を計上するためにどれだけのお金を注ぎ込んで(費用)、最終的にどれだけ利益を残したか(利益)ということを簡潔に示した資料ということです。
キャッシュフロー計算書とは
キャッシュは企業の血液?!
キャッシュフロー計算書とは、その企業の現金(キャッシュ)の流れ(フロー)を表した資料です。キャッシュフローがなぜ重要かといえば、どれだけ儲かっている企業でも手元に現金がなければ、支払いができず倒産します。いわゆる黒字倒産というものです。
儲かっている=お金があるではない
儲かっているならお金はたくさん持っているだろう。
そう思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、企業の実態はそうではありません。例えば事業拡大を志向して、積極的な設備投資を行なっている場合などは多額の現金を必要としますから、必ずしも手元資金が潤沢とは言えません。
また企業同士の商取引においては、その場で決済(現金を得る行為)が行われるとも限りません。掛けとした場合や手形で決済した場合は、売上計上と売上入金にズレが生じます。そうするとP/L上では売上とそれに伴う利益が計上されているにもかかわらず、現金は手元に入ってきていないということがあり得るわけです。
こういう状態のことを「勘定あって銭足らず」とよく言うのですが、貸借対照表や損益計算書が「勘定」を表現した書類で、キャッシュフロー計算書が「銭」を表現した書類というざっくりとしたイメージを持ってください。企業を定量的に正しく理解するには「勘定」も「銭」もどちらも必要です。
まとめ
今日はざっくりと財務諸表とは何かということを説明しました。ただこれはあくまでも原則論のところの話であり、実践の場ではうまく活用しながら使ってもらうことが重要です。次回以降の記事では、特にこういうところを見てほしいというところを説明していきます。
〜この記事を書いた人〜 武田 真輝 26歳。1児の父。 神戸大学在学中に学習塾の経営に携わる。 現在は、四国某第一地銀で法人営業。
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